IBDに対する食物繊維(プレバイオティクス)の効果と現実的な摂取方法を考える
以前の記事でIBDの寛解期維持には食物繊維の摂取が良いという研究をご紹介しました。
ですが、IBDの食事としては「低残渣食」が勧められている中で、なぜ食物繊維が良いのかいまいちわかりませんでした。
なので、ちょっと詳細な研究を見て、どういう効果があり、どういう摂取方法が良いか考えてみました。
では、スタートです。
食物繊維の種類
ほとんどの方がご存じかと思いますが、まずは食物繊維の水溶性食物繊維と不溶性食物繊維についてのご紹介です。
この特徴は重要だなと思うものを並べてみました。
水溶性食物繊維
・水に溶けて、膨らむ(=少し腸管を削る?)
・食物の通過時間を長くする(=血糖値の急上昇を防ぐ)
・発酵性が高い(=腸内細菌の餌になりやすい)
・栄養の吸収を阻害する
不溶性食物繊維
・水に溶けず、水分を吸収する(=腸管を削る)
・食物の通過時間を短くする(=血糖値を上昇させない)
・発酵性が低い(=腸内細菌の餌になりにくい)
・栄養の吸収を阻害する
で、どちらの食物繊維を選ぶか考えると
水溶性食物繊維のほうがメリットが大きいとわかるかと思います。
プレバイオティクス効果
IBD患者にとって食物繊維に期待することは主にプレバイオティクスの効果です。
プレバイオティクスとは腸内細菌の餌のことで、腸内細菌を増殖させます。
では、プレバイオティクスが腸内細菌の餌となるのは良いとして、どう腸に良いとされるのかを書こうと思います。
内容は2019年の論文(*1)と2015年の論文(*2)からです。
*1 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2019.00277/full
*2 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4607699/
良い腸内細菌を増やす効果
プレバイオティクスの効果として、良い腸内細菌を増やす効果があります。
2019年の現状ではIBDに対して、腸内細菌がどう作用するのかの詳細はわかっていないようです。
しかし、摂取する食物繊維の量や種類が増えると腸内細菌の量や種類が増えて(腸内フローラが良くなって)、IBDになりずらくなるのは確実なようです。
したがって、当たり前といえば当たり前ですが、腸内細菌を増やすのは有効と言えそうです。
悪い腸内細菌を減らす効果
食物繊維のイヌリンがいわゆる悪性の腸内細菌(バクテロイデス・フラギリス:Bacteroides fragilis)を減らしたという研究もあります。
逆に悪性の腸内細菌を減らす効果もあるなんで、不思議…
良い腸内細菌が多くなると自然に減らされるのか…
短鎖脂肪酸の増加=腸管修復
腸内細菌の増加の一種ですが、もう1点、重要な効果をご紹介します。
腸内細菌の中には酪酸のような短鎖脂肪酸を作り出す腸内細菌が多数存在します。
短鎖脂肪酸は腸管でエネルギーとして使用され、腸管の修復を行ってくれます。
つまり、短鎖脂肪酸は傷ついた腸粘膜の修復に役立つというすごいやつ。
ちなみに短鎖脂肪酸を生み出す酪酸菌で、日本で有名なのはミヤリサンですね。
レジスタントスターチ
ここで大腸における腸内細菌を増やすのに有効な食物繊維をご紹介します。
それはレジスタントスターチです。
レジスタントスターチは小腸で吸収されずに大腸まで届く食物繊維です。
したがって、レジスタントスターチは大腸の腸内細菌の増加に効果があります。
また他の食物繊維と比較しても短鎖脂肪酸である酪酸の産出量を多くする効果が高いようです(*3)。
レジスタントスターチは小腸では効果が薄いと思われるので、あくまで大腸を切除していない人向け。
私のように大腸を切除した人にはあまりオススメできません。
また、不溶性食物繊維を含むものあるので、緩解期での摂取が良いと思われます。
レジスタントスターチはAmazonで購入できるようです。
*3 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4607699/
食物繊維の注意点
食物繊維のメリットばかりを記載しましたが、やはり注意点があります。
食物繊維は水分を吸収してしまう
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維は水分を吸収してしまいます。
となると、体内への水分補給を阻害する可能性が考えられます。
したがって、特に大腸を切除した方は食物繊維を摂取すると脱水になりやすいと考えられます。
栄養吸収を阻害する
水溶性食物繊維は水分を吸収してゲル状になるため、
他の食べ物を巻き込んでしまいます。
したがって、食べ物の栄養吸収を阻害してしまいます(*4 メタボの研究ではメタボを改善)。
ダイエットには良いですが…
*4 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3257631/
腸管を傷つける可能性
不溶性食物繊維は水に溶けない性質のため、腸管を刺激し、腸管を傷つけると考えられます。
なので、IBD患者にとっては、不溶性食物繊維の摂取は極力避けたほうが良いと考えられます。
しかし、水溶性食物繊維は水分を吸収してゲル状になるため、
不溶性食物繊維よりは腸管への負荷が小さいと思われます。
したがって、摂取するのであれば、腸管へのダメージが少なそうな水溶性食物繊維が良さげです。
また、IBDの活動期になると刺激が強いと思われるため、避けるのが無難でしょう。
どのぐらいの量が必要か
水溶性食物繊維が多いオオバコの実験(*5)を見てみますと、
IBD患者105人への12ヶ月の実験
・オオバコの種を1日に10gを2回→再燃率:40%
・5-ASA(ペンタサ錠)を1日に0.5gを3回→再燃率:35%
だったとのこと。
オオバコと5-ASAの効果がほぼ同じぐらいと言えるとの結論。
したがって、食物繊維はだいたい1日に20gぐらい必要そうですね。
*5 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10022641
現実的な食物繊維摂取方法
お待ちかね(?)の摂取方法についてです。
結論から言うと、以下を満たすのが良いと思われます。
(1) 水溶性食物繊維をサプリメントから摂取
(2) できれば吸収したい栄養とは一緒に摂取しない
では、それぞれ詳細な方法と理由を記載します。
(1) 水溶性食物繊維をサプリメントから摂取
水溶性食物繊維が腸内細菌を増やす上、食物繊維としては腸管への刺激は優しいほうなので、まずは実験で効果のあった水溶性食物繊維の摂取を1日20g以上でオススメします。
そして、食品からの摂取ではなく、サプリメントからの摂取とした理由は野菜や果物から水溶性食物繊維を摂取しようとすると、どうしても不溶性食物繊維が多く含まれてしまい、腸管への刺激が強くなってしまうと思われるからです。
(実験で効果のあった1日20g以上の水溶性食物繊維を食品から摂取しようと思うと、かなりの不溶性食物繊維も同時に摂取することになり、腸管への刺激がきついと思われます)さらに食物繊維は多様性があるほうが腸内細菌の種類を増やす(腸内フローラを改善する)ことになりそうなので、以下のような複数の水溶性食物繊維がブレンドされたものをオススメします。 → 試したのですが、容器のニオイが臭く、効果も低そうなのでオススメできません(2019/06/19)。
また、オオバコについては研究によって効果が検証されているのでこちらもオススメです。
こちらは試したことがありますが、便の色が良くなっている感じはありました。
が、やはり少しお腹に貯まる感じです。
また、さらに効果を上げたい場合はプロバイオティクスを使いましょう。
IBDのプロバイオティクスについての記事をご参考にしてください。
(2) できれば吸収したい栄養とは一緒に摂取しない
エレンタールなどの栄養剤や、炎症を減らすオメガ3が多い食事などを取る時は水溶性食物繊維はあまりオススメできません。
理由は水溶性食物繊維が栄養吸収を阻害してしまう可能性があるためです。
したがって、水溶性食物繊維を摂取するタイミングは栄養剤などを飲んだ後が良いと思われます。
が、水溶性食物繊維によって栄養の吸収がどれだけ阻害されるかはわからないので、飲みにくい場合はエレンタール等の栄養剤に混ぜてもいいかもしれません。
また、逆に吸収したくないオメガ6が多い食事の時は事前に水溶性食物繊維を摂取すると良いと思われます。
なので、脂肪の多い外食時にはカプセルタイプのサプリメントを食前に摂取したほうが良いかもしれません。
まとめ
・水溶性食物繊維はサプリメントから摂取
・水溶性食物繊維は吸収したい栄養とは一緒に摂取しない
・活動期は水溶性食物繊維を摂取しない
・課題として水溶性食物繊維の美味しい摂取方法…(どなたか教えてください…)